「お祖母ちゃんには買ってって言われたけど、こんなの買ってもね」

「英凜、これめっちゃ大きく映ってるよ」

「あ、本当だ」


 でも、昴夜の指先には私が陽菜の隣でハチマキを振って応援している写真がある。昴夜は「あとこれ? とー、これ。これはちょっと小さいけど」と迷いなくいくつかの写真を指差す。私が先輩と喋っている写真、髪をポニーテールに結び直す写真、棒を拾って走る写真……。


「よく見つけるね。ウォーリーを探せとか上手い?」

「んー、んー、どうだろ……あ、あとこれ」

「……ほんとだ。お祖母ちゃんに言っとくね、昴夜が写真見つけてくれたって」


 言われた番号を封筒に書き込みながら、私はこっそり、昴夜の写真を探す。昴夜を好きだと気付かれることは構わないし、むしろ気付いてほしいけれど、それとこの気恥ずかしさとは話が別だった。

 昴夜の写真は次々と見つかった。徒競走にクラス対抗リレー、色別リレー等々、花形競技を総なめしていたし、なにより見た目がいいので目立っていたのだろう。中でも、ハチマキを真剣な顔で巻きなおす姿を映した写真に目がいく。一番日の高い時間帯、輝く陽光を受けた髪には金環が輝き、ハチマキは風に巻き上げられ、凛々しい眉と目つきには、まさしく“選手”の貫禄がある。

 こんな写真、あったっけ?


「……これ、よく撮れてるね」

「あー、これね。侑生にからかわれた、心霊写真みたいだって」


 とぼけた返事は照れ隠しだろうか。でも実際、写真の下半分に無数の指紋がついている。色んな女子が指差して「かっこいい」とはしゃぐ姿が目に浮かんだ。


「たくさん注文入ってるんじゃない? 写真屋さんのおじさんも写真家|冥利(みょうり)に尽きてそう」

「知らない女子が自分の写真持ってんの、なんか複雑」

「ていうか、そのときに写真買わなかったの?」


 てっきり、昴夜もまだ見にきていなかったのだとばかり思っていた。もしかしたら、私の写真もそのときには見つけていたのかもしれない。


「んー、侑生達と一緒に通りがかりついでに見たって感じだったから」

「男子は買わないよね、写真」

「侑生は英凜の写真買ってたけどね」


 ……反応に困って閉口してしまった。誤魔化す言葉は思い浮かばないまま、昴夜と侑生が一緒に映った写真を見つける。侑生の背中に昴夜が背中からぶつかりながらカメラに向かってピースをしている。不意打ちだったのか、侑生は迷惑そうだ。でもその写真のすぐ下に、全く同じ構図で侑生の手がピースに変わっている写真がある。


「なにこの奇跡の連続写真」

「あー、やったやった、このポーズ」


 この写真も、過去に覚えがない。こんな二人の写真があれば間違いなく覚えているはずだし、おそらく買いもしたはずだ。でもこんな写真は手元にない……。