「……そう。更衣室にお昼ご飯と陽菜のケータイ取りに行こうと思って」

「ついでだからついて行こっか、またナンパされても困るし」


 それどころか、そんな提案までしてくれる。なんなら私は、侑生とのキスを見せつけることになってしまった朝を思い出してちょっと気まずかったのに。

 これから侑生も休憩に入る。そう考えると、昴夜と一緒にいるのはあまり侑生に良くないのだけれど、更衣室に行くだけなら。

 それに――頭には今朝のこともちらつく――侑生にはちょっと、怒っているのだから。


「じゃ、お願い。でも女子更衣室のまわりうろついてたら変態と間違えられない?」

「そこは庇ってよ!」

「当たり前じゃん、一瞬でも冤罪が生じちゃうよって話だよ」


 笑いながら、執事服を着た昴夜の隣を歩く。


「クラスどう、お客さん入ってる?」

「入ってるよ、昴夜のお陰かな」

「バラまいてるからね、チラシ。行ったら俺ほどじゃないけどイケメンいるよって言って」


 昴夜は、今朝のキスのことには触れなかった。なんなら平然と侑生のことを口にする。


「そうやって侑生にさり気なく仕事押し付けようとしてるんだ、バレたら怒られちゃうよ」

「そんくらいいいじゃん、俺、今日ずっと客寄せパンダのパパパンダなんだよ」

「でもみんなパンダ見にくるんだよ、主役じゃん」

「適当なこと言っておだててもだめだよーだ」


 お互いにクラスの出し物を着て、お喋りをしながら歩いて、昴夜は看板をぶら下げ、たまにその手のチラシを配って宣伝もする。クラスで与えられた役目を果たしながらも、まるでデートのようだった。

 この時間がずっと続けばいいのに。更衣室に着くまでじゃなくて、もっとずっと、文化祭が終わるまで。


「あ、そういや写真買ってないや」


 渡り廊下で、昴夜が立ち止まる。視線の先には、体育祭の写真が廊下一面に貼られていた。

 そういえばこんなシステムがあった。撮影者は、おそらく学校と提携している写真館のおじさんで、行事のたびにランダムに生徒の写真を撮影する。その写真はイベントが終わってしばらくすると現像されて廊下に貼りだされ、私達は注文票の貼られた封筒に番号を書いて代金を入れ、写真を注文する。まだ生徒がスマホを持っていない時代ならではのシステムだろう。


「私もまだ買ってないや。いま見ちゃおうかな」


 昴夜の返事を待たずに歩き出してしまったけれど、すぐ後ろをついてきてくれる気配がする。飼い犬のようで可愛かった。

 この手の写真に、私は映っていることが少ない。写真家のおじさんはランダムに写真を撮るとはいえ、結局は選手宣誓だの騎馬戦だのの花形の競技に出ているか、おじさんに「写真撮って」と人懐こく言えなければ、そうそうきれいに写真におさまることはないからだ。実際、私が見つけたのは端っこにちまっと映っている自分だ。