「自分で撮れるようになればいいのにな、こういうの」

「自分で撮れるようにってなんだよ」

「他人に頼まないでも。この画面側にカメラつけて、自分で撮影画面見ながらシャッター押せればいいんだろ、理論上簡単そうだけどな」

「えー、何言ってんのか全然分かんね」


 要はスマホの自撮りだ。さすが侑生、アイディアが素で先端技術をいっている。


「三国、カメラ向けると顔が強張(こわば)るよな」

「写真は苦手なんだって」

「ほんとだ」


 昴夜が侑生の肩に腕を載せながら笑う。ほら、そうやって昴夜の中に残る私がブサイクになってしまう。だからイヤなのだ。


「カメラ目線じゃなかったらちゃんと撮れてるのにな。英凜の写真は盗撮しなきゃ」


 そうか、昴夜は私を好きなんだから写真が欲しいのかもしれない。そんな文脈ではないのについ納得してしまった。

 私は、昴夜の写真をあまり持っていなかった。この時代はスマホほど携帯電話内蔵カメラの画質がよくなかったというのもあるけれど、陰キャの私に彼氏でもない男子の写真なんて撮る機会がなかった。いま思い出せるだけでも、持っているのは修学旅行の写真と、せいぜい集合写真くらい。

 いまの私が昴夜の写真を撮れば、十四年後の私の手元には、もっとたくさん、昴夜の写真が残るのだろうか?


「私の写真はいいから、昴夜の写真撮ってあげるよ」

「一人で? 恥ずかしいじゃん、侑生一緒にうつってよ」

「なにが悲しくて男二人の写真を」

「いや待て、お前ら二人の写真は需要がある! 英凜にしてはいいこと言った、撮ろうぜ!」


 私と陽菜がカメラを向ける向こう側で、侑生は直立不動に無表情だけれど、昴夜は色んなポーズをとる。途中からふざけた仕草になっていたけれど、笑顔のピースの写真を撮ることができたのが嬉しい。


「ありがと」

「めちゃくちゃ撮ったね、なに? もしかして売るつもり?」

「自意識過剰」

「いま鼻で笑ったよね? んじゃ次、英凜の写真撮ろ」

「いやだから私はいいって」


 私は昴夜の写真が欲しいけれど、昴夜に私の写真を持っていてほしいかと言われるとそれは微妙だった。昴夜の中にブサイクな自分を残したくなかったし、百歩譲ったところで侑生とのツーショットを持たれるなんて謎過ぎる。


「いいじゃん、高二の文化祭の思い出に。卒業した後、懐かしいなーって見れるよ」


 “懐かしい”……。十四年後の昴夜は、私のことをどう思い出しているのだろう。それこそ、昴夜と一緒に写真を撮った記憶はない。昴夜は私の写真を持っているのだろうか。持っているとして、それを見てどんな感情を抱いているのだろう。遠く離れたところで、もう二度と会わない私のことを、どんなふうに。


「ほら、雲雀も横に立てよ」

「なんで俺まで」

「だって桜井が英凜のピン写持ってるの謎じゃん。あ、でも準備するからちょっと隅に行っといて」しっしと、陽菜は私達を窓際に追いやる。


「えー、俺、カップルの写真撮らされんの?」

「だから私はいいから。侑生だけ撮ってあげて」

「いや余計に意味分かんないから。いいよ、二人並んだの撮ったげるよ」


 十四年後の昴夜は、私を忘れてしまっているだろうか。忘れられていたら寂しいけれど、忘れてくれてたらいいな。侑生も昴夜も、私のことを忘れて、ちゃんと誰か幸せにしてくれる人を見つけてくれていたら。

 でもたまに、私と同じ気持ちで振り返ってくれたりしないかな。好きだったな、あの頃に戻りたいな、って。


「三国、頭の飾りズレてる」

「そう?」


 昴夜が携帯電話を手にカメラを起動しようとする前で、侑生が私のヘッドドレスに手を伸ばす。学校でベタベタするタイプじゃないのに珍しい。みんな準備で慌ただしく、誰も見てないからだろうか。


「ん」

「直った? ありがと」

「んじゃ英凜と侑生こっち向いてー」

「だから私は――」


 映らなくていい、と(かたく)なに拒否しながらもカメラのほうを見ようとして――ぐいと顎を動かされた。

 カシャンッと古臭いシャッター音が響いたのと、侑生にキスされたのと。どちらが先だっただろう。