「無愛想だけど笑うと可愛いところ、とか……?」

「ああ。はい。ごちそうさまでッテェ! 俺いま悪くないだろ!」

「いいから客引きに行けよ」


 しっしと小滝くんを追い払った侑生の頬はしっかり赤くなっていた。高校生のときにこんな顔を見た覚えはないから、当時の私は訊かれても違う返事をしていたのだろう。

 クラスの子達は一年生のときの昴夜を可愛いと言っていた記憶はあるけれど、侑生が言われているのは聞いたことがない。可愛い、と思うのは私が年上になってしまったからなのだろうか。男は可愛いと言われても嬉しくなんかない、というのはたまに聞くけれど、侑生は違うのだろうか。


「……真面目に答えなくていいよ、ああいうのは」

「狼っぽいところとか言っとけばよかった?」

「他意ありそうだからそれじゃなくてよかったけど」

「私はメンクイだと思われてもいいよ」

「狼っぽいがなんでメンクイだよ」

「銀髪が似合うって顔が良くないと厳しくない? 銀髪に染めた後輩がいたんだけど、全然似合ってなかったというかまるで頭だけおじいさんになったみたいで。侑生みたいに色白で顔も良くないといけないんだなってしみじみ思った」

「そんなヤツいたっけ?」


 しまった。頭に浮かんでいたのは大学の後輩だ。


「……いたよ、似合ってないって自覚したのかすぐに戻してたけど。……名前は私も忘れちゃった」

「ふーん。全然覚えてねー」


 ……誤魔化せただろうか? 十月だというのに背中は冷や汗をかいていた。でも侑生がタイムリープなんてことを勘繰るはずがない。大丈夫だろう。

 問題の長岡さんとは、二年四組の教室を出たところでばったり出くわした。その子は親しげに侑生の肩を叩いていたけれど、侑生以外の男子とも近い距離で接していそうなスポーティな見た目の子で、悪意はなさそうだった。侑生の彼女ポジションの私に対し若干険を帯びた顔を向けたような気もするけれど、相手は高校生、好きな人に彼女がいて嫌な顔ひとつしないほうが不自然というものだ。


「長岡、余計なことばっか話してったな。悪かったな、付き合わせて」

「ううん、全然」


 むしろ、来年三月には別れることが分かりきっているのに“彼女”として牽制しにくるなんて、私のほうが悪い。


「……あの子、侑生のこと好きなんだよね」

「だと思うけど。さっきもわざとらしかったろ、わざわざ牧落の名前挙げてみたり、英凜が分からない予備校の話してみたり」

「そういえばそういう側面もあったかも」

「……英凜、他人の悪意に鈍感だよな」

「悪意ってほどじゃないじゃん。侑生のことを奪い取ってやろうって子じゃないし」


 そういえば、私と侑生が別れた後、長岡さんはどうしたのだろう。二人が一緒にいるのを一度見たことはあったけれど、侑生から話を聞いたことはなかった。