それを見ていると、チリチリと胸に罪悪感が走る。私が抱いているのは愛情のようなもので、恋情ではない。侑生と付き合っているのも、当時の私が選択したこととはいえ、今の私にとっては“別れることができないから”以上のことはない。

 私は、過去より一層侑生に後ろめたいことをしているのではないか。その罪悪感が、チリチリと胸を焼くのだ。


「……侑生はもともと笑うと思うんだけど。それはそれとして、最近ちょっと明るいよね。見てて嬉しいっていうか、微笑ましい」

「お前は何ポジションなんだよ、母親かよ。彼女なんだぞ」

「それは分かってるんだけど」


 だって十四歳年下なんだから、仕方ない。


「おい、桜井、親友がとられたからって拗ねるなよ」

「拗ねてません! 別に侑生は俺の保護者じゃないからね!」


 冗談交じりに憤慨していても、昴夜の本音を知っていれば、本当に拗ねているのだと分かる。

 それを見ていると、少し寂しく、胸も痛い。

 目の前の昴夜は私を好きで、私が侑生と仲が良いことに嫉妬している。それなのに私は、「好き」の一言を告げることができない。何をどうしようと、その心だけは、伝えられない。


「昴夜もさあ、いい加減侑生離れしたら? 侑生は英凜の彼氏なんだし」

「だから別に拗ねてない。ちぇっ、どうせ文化祭も二人で仲良くまわるんだろ」

「お前だって胡桃ちゃんとまわるだろ」

「胡桃はクラスの連中とまわるんじゃないの?」

「あーっ、ほらそういうこと言う!」胡桃はわざとらしく(まなじり)を吊り上げ「そういうのは、まずは一緒にまわろうって声かけるとこでしょ?」

「んでもクラスの連中とまわるんでしょ? んじゃいいじゃん」

「本当にそういうとこ! 本当に昴夜、ぜーんぜん乙女心分かんないんだから!」


 胡桃はそのまま立ち上がり「昴夜なんかとはまわってあげませーん」と可愛らしく舌を出して、自分の教室へ戻っていった。昴夜は頬杖をつきながらその後ろ姿を見送る。


「なんで俺がフラれたみたいになってんだろ。別にいいけど」

「いやあれはお前が悪いだろ。胡桃ちゃんに謝っときな? 愛想尽かされるぞ?」

「いいのいいの、むしろそのほうが」


 むしろそのほうが……? 昴夜は胡桃を好きではないから、別れても構わないというのは理解できる。でも、こんなふうに態度に出していたことはなかったはず……。怪訝な顔をする私の前で、陽菜も不可解そうに眉を顰めた。


「てか話は変わるけど、英凜。文化祭で揉め事に出くわしても、この間みたいなこと本当やめなよ?」

「この間の?」


 例によって十四年前の話だろうか。首を傾げていると「夏休みの! 俺ん()の最寄り駅来てたときの!」と力強く言われて、どうやらいまの私の話だと気付く。


「なにしたんだよ、英凜」

「別になにも」

「警察呼んだとか啖呵切ってカツアゲ止めようとしてたの」

「マジかよ、格好いいな英凜」

「そうじゃないんだよ! あのね、危ないからやめてって言ってるの。相手男三人だよ?」


 そうは言われても、傷害前科のついた巨漢でもなければ覚せい剤の中毒者でもない。