すっかり慣れを取り戻した学校で、(はる)()に「英凜と雲雀、最近余計にいい感じだな」と言われた。

 陽菜は、私が侑生を好きなのだと信じていた。私は肯定も否定もしたことがなかったのだけれど、大人っぽくてイケメンの侑生と付き合っていて好きにならないはずがないという、陽菜らしい理屈に基づいていたのだと思う。


「侑生にもそう言われた、最近距離近いって」


 食べ終えたパンの袋を片付けながら頷いた。いまの私はいつも同じコンビニの同じパンを買っているのだけれど、侑生に「そこは夏休み明けても変わんねーな」と言われたので、どうやらバランス栄養食箱買いの片鱗(へんりん)はこのときからあったようだ。


「くそっ、惚気(のろけ)かよ!」

「いーなー、英凜と侑生はラブラブで」


 地団太を踏む陽菜の隣で、胡桃は悩まし気な溜息をつく。胡桃はクラスが違うけれど、昴夜の彼女だということでいつも五組まで来て一緒にお昼を食べていた。


「なんで、胡桃ちゃんと桜井だってラブラブじゃん」

「そういうことじゃなくてー」


 本当に二人は全くラブラブではないのだが、そういうことではないので黙っておく。


「侑生って英凜のこと超好きって感じじゃん? 帰りもいつも一緒だし、なにかあったらすぐ英凜英凜って。昴夜、帰りに迎えにくるとかぜーんぜんしてくれないし」


 声を張り上げながら、胡桃が昴夜に視線を向ける。昴夜は少し不服そうな顔をしながらこっぺパンを丸かじりしていた。


「聞いてる、昴夜?」

「聞いてる」

「聞いてないでしょ!」

「聞いてるってば、侑生が英凜のこと好きすぎって話ね」


 聞いていない。胡桃が頬を膨らませているのに気付かないのか、昴夜は「でも最近アイツ気持ち悪いよねー」とわざとらしく口を尖らせる。


「あー、これ絶対英凜と上手くいってんだなって、見てて蹴りたくなる」


 昴夜につられて、つい私達も教室の角に視線を向ける。侑生はお昼を食べ終えて友達と喋っているところだった。タイムリーに、その横顔は大きく口を開けて笑い始める。


「あんな明るい侑生、侑生じゃない」

「わ、あたしあんなに侑生が笑ってるの初めて見た」

「分かる。最近の雲雀、めちゃくちゃ笑うよな、な!」


 最近の侑生は、明るく笑うようになったと評判だ。親友の昴夜が侑生と真逆の子どもっぽいタイプだということもあり、侑生といえば大人っぽくてクールな印象が強かった。それがあんな笑い方をするのだから、女子の視線を集めないはずがない。