自覚があるようなないような、そんな複雑な心境で閉口した私の体に、侑生が少しだけ体重を預けてくる。ずしりと重みを感じるけれど、でも全体重には程遠い軽さだった。


「……近いから、もっとしたいような、しなくてもいいような。なんか変な感じ」


 好きじゃなくても、キスでもなんでもしてるうちに流されるよ――そんなことを言われたことがあった。あれはいつの話だっただろう。だから、付き合っている以上はキスもその先も全部すると、今になって思えば拒絶されるのを待っているかのようなことを宣言された。

 私はずっと昴夜を好きだった。でも気付いたときには侑生と付き合っていたから言えなかった。侑生はそれを知っていた。

 昴夜が、昴夜が――在学中も卒業後も私はずっと昴夜のことばかりだったけれど、その間、侑生はずっとどんな顔をしていただろう。


「……ごめん」


 そっと背中に手を回す。抱きかかえると、その体が自分よりずっと分厚いことが分かる。少し涼しい秋風が吹きこんでくる部屋に、人の体温は心地よかった。


「なんで謝んの、いつもよりいいって話なんだけど」

「そのいつもが……見当違いのことをしてたような気がしたから。ごめんね」


 この心地のいい体温を、あの頃の私はいつもどんな気持ちで受け取っていただろう。


「英凜が見当違いなのはいつものことだよ」

「ひどい! 私だって私なりに一生懸命考えてるのに!」

「はいはい」


 投げやりな返事とは裏腹に、侑生が明るく笑っているのを感じる。

 すぐ近くに見える耳たぶには、青のピアスが光っていた。一年生の誕生日に私が渡したものだ。今年はパスケースを渡した。現実には悩んだ末にマグカップを買った記憶があるのだけれど、今になって考えると迷走していたとしか思えない。パスケースは、使うよという意思表示のように、既にカバンにくっついている。

 高校一年生と二年生の大半を、私はこうして侑生と過ごしていた。その間に私が見ていた見ていた侑生は、明るい笑顔を見せたことがあっただろうか。

 自慢の記憶力は、少し頼りない。