それにしてもやっぱり、あの態度を見ていて私を嫌いだとは思えない。人には思いがけない二面性があるものだと、胡桃の出て行った扉を見ながらそんな感想を抱いていた。
「昴夜、これやる」
「え、いらないよ俺クッキー嫌いだもん」
「舜、パス」
「あざーっ」
胡桃の手作りクッキーの包みは華麗に教室内を横切り、荒神くんの手に着地した。
侑生は胡桃が嫌いだった。過去に胡桃が片親家庭を馬鹿にしているのを聞いたことが原因のひとつらしい。その他の原因は、いわゆる性格の不一致だ。
「つかお前のそのクッソダセェ十字架なに? クリスチャンだっけ、お前」
「違います、てかクリスチャンだったらどーすんの。誕プレなんだけど、どーしよこれ」
昴夜の手の先で、ジャラリと鎖が滑る。どうやら“ダサイ”と感じるのは令和人だけではなかったようだ。
「雲雀も桜井も……正気かよ、あの胡桃ちゃんからの誕プレなのに」
「んじゃ池田は俺がこのクソダサイ十字架つけてたらどう思う?」
「そんなダサくなくない? お前顔だけは良いんだからなんでも似合うだろ」
「褒められちゃった」
「顔だけは良いってむしろ悪口じゃないの」
「やめてそういうこと言うの! 俺は褒められたって思いたいの!」
その手はネックレスを片付けながら「てか首につけるの好きじゃないんだよなあ、首絞められちゃうじゃん」と物騒な心配をする。でも言われてみれば、昴夜がピアス以外のアクセサリーをつけている覚えがないのはそういうわけだったのか。
……覚えといえば、胡桃が教室までやって来て昴夜に誕生日プレゼントを渡したなんてイベントにも覚えがない。昴夜の態度はともかく、なぜ私は胡桃の行動まで変えてしまったのだろう。謎だ。
「……それで、侑生は?」
「俺がなに」
「……英凜からなに貰うのかなーって」茶色い目が私と侑生を行き来する。
「なんでお前に言う必要あんの?」
「感じ悪ッ! いいじゃん教えてくれても! ケチ!」
「ていうかまだ侑生に渡してないんだから。さすがに昴夜に先に言うわけにはいかない」
「分かった、当てる。ポッキー」
「自分がトッポだったからでしょ。違うよ、侑生はもっとちゃんとしたやつ」
「俺のはちゃんとしてなかったの?」
「そういうわけじゃないけど、昴夜は友達だから……」
この遣り取りもなかったはずだ。もちろん細かい会話なんて覚えていないもののほうが多いけれど、昴夜が私と侑生の関係に言及したことはなかったはず。昴夜は私を好きなのだから当然だけれど、じゃあなぜいまは言及するのか……。
はて、と首を傾げる私の隣では、侑生がじっと私を見ていた。でも何か訊かれたときに誤魔化せる自信がなかったから、気付かないふりをしておいた。