私は、侑生と付き合っている間に、昴夜とキスしたことがある。

 二年生のときの話だ。お庭になっている枇杷のおすそ分けをもらうという名目だったので、おそらく夏前だったと思う。昴夜に誘われるがまま、キッチンで一緒に枇杷の皮をむき、立ったまま枇杷をかじった。そのときにキスされた。

 私は、それを侑生に対する裏切りだと思った。勝手にキスされたとはいえ、昴夜の家に二人きりだったし、二人で過ごす時間を楽しんでいた自覚もあったから。

 だから、その場から逃げ出した。昴夜の気持ちなんて聞かなかった。昴夜も、後日「出来心だった」と謝っただけだった。私の態度を見て、まさか両想いだとは思わなかったのだろう。

 どうせ過去に戻るなら、その頃まで戻ってくれればよかったのに。そうすれば、私はあの場で逃げ出したりなんてしないのに。そうでなければ、せめて今すぐ、昴夜に好きを伝えさせてくれればいいのに。

 でも、そう都合よくはいかない。このタイムリープでは、昴夜に告白することはもちろん、侑生に別れを告げることも許されなかった。三十歳の私が十六歳になってしまった以上、些細な改変は生じ得るけれど、それはあくまで未来を分岐(ぶんき)させない程度に許容されているだけだ。

 それなら、なぜ私は十四年前に戻ってきたのだろう。一体、何のために。