……ああ、そうだ。でも私は、侑生にも言っておきたいことがあったんだ。


「だから、私が引っ越す前に最後に会ったのは侑生なんだけどね。もう二度と会うことはないねって話して、本当に、それ以来一度も会ってないんだけど」


 「英凜はなにも悪くない、だからあんまり泣くなよ」――侑生はそう言ってくれた。


「高校生のとき、侑生からは色んなものをもらうばっかりで何も返せなくて、ろくにありがとうも言えないで、ごめんね。私にとって、侑生もずっと特別で大事な人だから……、だから、侑生はちゃんと、幸せになってね」


 夢は覚めないままだった。侑生は静かに、どこか唖然としたした顔で私の話を聞いていた。


 もう一度涙を拭いて、鼻を啜った。まだ夢が続くというのなら、これからどうしよう。もともとは昴夜の家に行こうと思っていたけれど、隣には侑生がいる。


「今日、夜は用事あるの? なかったら、夕飯作るから、一緒に食べない?」

「……それなら、祖母ちゃんに連絡しないとな」

「……そうだね」


 この夢の中に、お祖母ちゃんはいるのだろうか。ガラケーを改めて開くと、スマホにはない「三国妙子(たえこ)」という連絡先がリダイヤルに入っていた。お祖母ちゃんはメールを打てなかった。

 電話をかけると、十三年前と変わらない、お祖母ちゃんの声が聞こえた。震える声で「今日、雲雀くんと晩ご飯食べてから帰るね」と伝えると、お祖母ちゃんは、あの頃のように軽い調子で返事をした。


「……祖母ちゃんと話すの、久しぶりなの」


 電話が切れた後、侑生が遠慮がちにそう言った。


「高三になった四月に死んじゃったから」

「…………」

「……もう十三年も前だからね。お祖母ちゃんが死んだのは事故じゃなくて、言ってしまえば寿命みたいなものだったし……あのとき死ななくても、今はもういなかったよ」

「……そっか」

「……本当に、あのときほど色んなことがあったときってなかったな」


 高校卒業後も、大なり小なり人生の起伏はあるけれど、高校生のときほど波乱万丈の日々はなかった。


「……そのとき、俺は、英凜の力になれてた?」


 夢の中の侑生は少し自信なさげだったけれど、思い出してみれば、侑生はなんでもできるくせに全然自信たっぷりなんかじゃなかった。


「……ずっと支えてくれてたよ」


 苦笑いを見て、ああ、この顔が好きだったと思い出す。恋はしていなくても、侑生のことも大好きだった。