「その時に短髪の人、そのつり目の人になんて言ったか分かりますか?」

「……さあ。」

「『こんな公然で、しかも男の俺に梨添さんのプライバシー話すなんて牽制か』って。」

「……」

「意味、分かってる?梨添さん!」

「ええと、はい。」


年下に説教じみたことを言われるばちゅいち。これの一体どこが志望動機なのか。



でもそれまでかみ砕いていた彼の喋り方と態度に、少しだけ緊張感が備わった気がした。


不死原君がぴんと背筋を張って、大きく深呼吸をする。

私もその空気に呑まれて、自然と背筋を伸ばす。すると一緒に心臓も、にょんと伸びた。



「初めてバツイチだと聞いた時、俺のような学生からしたら、ラスボスのように思いました。」

「……」

「夜、喫煙所でいきなり離婚理由を聞いた時、そこは異次元か。と思いました。」


なにか、思っていたのと違う。


「きっと梨添さんの人生からしたら、俺が関わったのなんてほんの1ページ程度で、でも、その1ページが濃厚になれば、もしかしたらしおりを挟んでもらえるのかもしれないってずっと諦めきれない俺が呪いをかけてくるんです。」

「…呪い…。」


呪い、呪詛。私が思ってた通りのワードが出てしまった。


「それは、不死原君の呪いじゃないと思うよ。きっと、私の呪い…。」

「呪いとかそこどうでもいいんですよ。」

「はい、ごめんなさい。」

「…で、つまり、ですね。」


不死原君が手提げの鞄の中からファイルを出して。

そこから原稿用紙の束を取り出した。