「梨添さん、」


絡んだ指が熱い。

唇もまだ熱い。

私を呼ぶ声は甘いイケボ。もっとロマンチックな苗字になりたい。


「…俺、よく分かりません。」

「えッ、なっ、」

「俺、梨添さんがよく分かりません。」


間近に迫る不死原君の声。

耳に響いてしょうがない。鼓動も響いてしょうがないし、絡められた指も全然ほどけなくて、どこもかしこも溶けそうなのに。

干物と化石のカピカピも癒えて、女が潤う。ありがとう、ありがとうございます。


そうじゃないよ私、そうじゃなくって。



「ふじわらくんっ、あ、あのねっ」

「…はい?」

「わたし、そのっ、実は…!」


惜しいな。非常に惜しいよなこの状況。


もう二度と味わえないかもしれないよ?もうこの先誰にも相手にされないかもしれないのに?

それでもやっぱり、言わないと。

ゆすぶっているわけでも、ゆさぶっているわけでもないんだよって。

君は本当に優しいから。


きっと本当は第一印象の通り、君はこなれてるんだよね。

計算高い部分とかもあって、でもそれを私には見せないようにしながら、上手く私を持ち上げてくれて。


さっきだって、私が何となく帰りたくないのを察してくれたんでしょ?

だから私を少しでも留まらせてくれるために、「何でもリクエスト、受付ますので。」って言ってくれたんでしょ? 

「何でも」ってつまり、"今すぐにでも叶えられるリクエストでも"って意味でさ。



気遣いができる優しい君に、私なんかはもったいないよ。