目の前の男子は楽しそうに高笑いした。ハハハハハ、としか表現しようのない声だけれど、筆舌に尽くしがたい、その表情と同じ下劣さに満ちていた。
「なるほどね、御三家の姫は御三家と同類ってわけだ」
確かに、ここで私が舞浜さん達を心配するようなお人好しだったら、御三家は選ばなかったかもしれない。
「いいね、俺はそういう女子も結構好きよ」
そしてきっと、大人しくやられるような子も、御三家は選ばないだろう。
両腕で掴んだ相手の腕を支えにして、彼の腹部を思い切り蹴り飛ばした。相手は「うぇっ」と呻きながら私の首を手放した。
「げほっ……、はぁ……」
首をさすりながら咳き込んでいると、蹴った相手が背後の机に手をつきながら「いってぇ……」と腹部をさするのが見えた。彼の仲間が「おいヒロッ、大丈夫か?」なんて駆け寄るのが聞こえる。
「このっ」
バンッ、と鈍い音と共に、頬に強い痛みが走った。殴られた頬をおさえながら蹈鞴を踏めば、拍子に黒板にぶつかり、チョークが落ちて砕けた。びりびりと痛む頬から手を離したのと、輪郭のぼやけた手がもう一度私に伸びてきたのが、ほとんど同時。その手に強く肩を掴まれて、そのまま床に引き倒された。乱暴に床に打ち付けられた背中が悲鳴を上げる。
「ふざけんなっ……一般生徒は大人しくしてろよ!」
よく見えなかったけれど、声で私が蹴った相手だと分かった。その男子は私に馬乗りになり、私の両手首を片手で握って頭上に縫い付ける。
「放してよ」
もう、この手からは逃れられないだろう。さっきの不意打ちが限界だった。
「放して!」
せめて誰か気付いてくれれば――と一縷の望みをかけて叫んだとき、コンコンと妙に静かなノック音が響いた。