「遼はこれでも女子人気が高いし、見ての通り男の生徒会役員と喧嘩ばかりしてるから恨みも買っている」

「おい後半要らねぇだろ」

「正役員を筆頭に主に男子役員は俺達を敵視してるが、指定役員以下の女子、つまりほとんどの女子役員は建前がどうあれ、俺達を嫌ってはいないし、むしろ逆だ」

「御三家は顔に物を言わせて女子人気を獲得してるってことですか?」

「理解が早くて助かる。つまり、女子役員は正役員の脅威さえなければ御三家につきたいのが本心だといっても過言ではない」


 なんて自信過剰な発言……。と思うけど、御三家の三人の本性さえ知らなければ、その容姿からファンがついててもおかしくない。


「その御三家の遼と一緒にいたんだ。実際の関係がどうあれ、あらゆる女子から嫉妬を買うのも当然。そして建前は生徒会絶対主義の空気があるんだ、“遼と一緒にいる不愉快な女子”ではなく、“生徒会の敵である御三家と親密な生徒”として堂々と君を虐げることができる」


 つまり――と締めくくりながら、月影くんは嘲笑(ちょうしょう)を浮かべた。


「遼に興味を持たれた時点で、君の退路は断たれた。君は御三家(おれたち)の下僕として働く以外、(みち)はない」


 ……嘘だ。ひくひくとひきつりだした私の頬に、桐椰くんが追い打ちをかけた。


「生徒会役員の虐めがしつこいのは身を(もっ)て体験してるだろ。まあ、在学中ずっとあんな目に遭ってても耐えきれる自信があるってんならいいけど、今のところ耐え抜いたヤツいないぜ? 一番長いやつが一ヶ月だったから、あと一週間で記録更新だ」


 だらだらと冷や汗が流れ始める。


「今までは一般生徒は生徒会役員に便乗してた程度だろうけど、さっき駿哉が言ってたことからすれば、今度は一般生徒が自ら血気盛んに桜坂を追い詰めるだろうね」


 そして、松隆くんがトドメを刺す。

 ──どうやら、選択を間違えたというのは間違いだったらしい。私には、最初から選択肢なんてなかったんだ。


「……分かりました」


 ぎゅっと、拳を握りしめる。


「やります。下僕でも奴隷でもなんでもやります」

「ありがとう」

「……守ってくれるんですよね?」


 思わず敬語で確かめた私に、松隆くんはその甘いマスクで微笑んだ。


「もちろん。何があっても、俺達が全身全霊をかけて桜坂を守ってあげるよ」


 その微笑も、セリフも、差し出された手も、全てが、その瞬間だけは完璧だった。桐椰くんと月影くんの視線を感じながら、そのひんやりとした手を握り返す。


「よろしくお願いします」


 御三家と私との下僕契約が、成立した。