「それより、いい加減御三家をやめて指定役員になる気はない? 桐椰くんならまだ歓迎してるけど」
「うるせーな。何でお前らなんかとつるまないといけねーんだよ。言ってるだろ、セフレは他で見繕えって」
はぁ、と桐椰くんは溜息をついて歩き出した。お陰で俵担ぎ状態の体が揺れる。とはいえ力持ちなのか、腕は力強いし、最小限の振動しか感じない。ただ、そんなことは関係なく、男子の腕が自分の腰から背に回ってると思うと、さすがの私も抵抗感を覚えざるを得ない。
「ちょ、ちょっと下ろしてよ」
「生徒会役員なんてなってもらっちゃ困るからな、逃げられないようにこのまま連れて行く」
「逃げないから下ろしてよ!」
「おい蝶乃」
私の文句を無視して、桐椰くんは蝶乃さんを振り返った。顔を上げると、蝶乃さんがわざわざ応接室から出てきてお見送りをしてくれていた。
「コイツは俺達御三家のもんだからな。手出した役員は容赦しねぇって伝えとけ」
「……ふぅん。桜坂さん、それでいいの?」
「あ、うーん、まあ、いいです」
「そう」
後悔するわよ、と小さく付け加えられたけど、どうせもう私に決定権はない。桐椰くんに抱えられ、ゆらゆらと揺れたまま生徒会室を後にした。
生徒会室を出ても、桐椰くんは下ろしてくれる気配がなかった。いい加減、頭に血が上りすぎて破裂しそうだ。
「あのー、そろそろ下ろしてほしいのですけど」
「お前、何で生徒会室に行った? 俺達の誘いを無視してまで」
「だから、あのメモの意味が分からなかったんだってば! 第六西ってなに!」
「裏校舎、旧第六校舎だろ。んで、その西側。分かるじゃねぇか」
「旧第六校舎なんて名前知らないし!」
「あー、そっか、学校案内で読んだら知らねぇか」
じゃあ今覚えろよ、と。なんて横暴な。
「ところで桐椰くん、話は変わりますけど」
「なんだよ」
「駿哉くんが怒ってるって、何で?」
私にはさっぱり心当たりがないのですが? そう付け加えると、桐椰くんもないらしく一緒になって首を傾げた。