引き受けます──と言おうとしたところで、「おい待てよ!」という男子の叫び声が聞こえた。蝶乃さんと私と有希恵が、声のした方──生徒会室を振り向く。有希恵は真っ先に扉から顔を生徒会室に向かって覗かせて……、「ひっ」と声を上げて飛びのいた。ついで、ぬっと現れたのは、ものすごく見覚えのある金髪ピアスの男子生徒。不機嫌そうに歪んでいたその唇が開いた。
「お前なにやってんの?」
「え? えーっと、お茶?」
桐椰くんに向かって紅茶のカップを掲げて見せる。案の定、桐椰くんの頬はぴくりとひきつった。
「なるほど? いい加減俺からのツッコミ待ちってことだな?」
「ち、違う! 違います!」
「ちょっと桐椰くん、生徒会室には生徒会役員以外の立ち入りを禁じてるんだけど。勝手に入ってくるなんてどういうこと?」
すっかり無視されている蝶乃さんが立ち上がるけれど、桐椰くんは「うっせーな。俺達は生徒会規則に断じて従わないって言ってんだろ」といつもどおり一蹴すると私に顔を向けた。
「おい、駿哉がお呼びだ。つか放課後来いって言ったろ」
「え? 何が?」
「下駄箱にメモ入れただろ! ゴミが入ってまぎれないようにガムテープで目張りすんの大変だったんだからな!」
桐椰くんの口から飛び出した衝撃の事実。嫌がらせの一つだと思ってたあのガムテープ……。
「あれ桐椰くんの嫌がらせだったの!?」
「嫌がらせじゃねーよ対策だ!」
確かにいつも通りゴミを入れられたらルーズリーフ一枚の手紙なんて紛れて捨ててしまったと思うけど。
「でもどっちにしろどこかなんて書いてなかったじゃん!」
「書いただろ! いいから来い、駿哉が怒ってる」
なんだと……。桐椰くんの発言は色々とツッコミ所満載だったけれど、一番最後の一言が一番謎だ。なぜ会ったこともない人に怒られてるの、私。
まあでも桐椰くんが出てきたってことは生徒会役員になる話は自然消滅だし……と立ち上がると、そのままひょいっと、俵担ぎをされた。
「え!? ちょ、ちょっと!」
「ちょっと桐椰くん! 彼女は、」
「うるせーな。コイツがなんだ。次はコイツを殺そうってのか?」
──殺す? その言葉に眉を顰めるけど、俵担ぎの状態だと蝶乃さんの表情はおろか、桐椰くんの表情も見えない。
「まだそんなこと言ってるの? 言ってるでしょ、あれは事故だって」
「まだそんなこと言ってんのか? あれは事故じゃなくて、お前らが殺したんだんだろ」
桐椰くんの声が地を這うように低くなる。
「俺達は絶対に許さないからな。絶対に、証拠掴んで潰してやる」
「あっそ。ただの事故だって分かるだけだと思うけどね」
これが、御三家が生徒会に敵対する理由……? 詳しく聞きたいのはやまやまだったけれど、今はそれどころではない。