「そう言えば桜坂さん、最近桐椰くんと一緒にいることがあったみたいだけど、御三家と何か関わりがあるの?」
「え? いや、特にはないです」
今のところ、と心で付け加えたから嘘じゃない。
「そう。もし御三家と何か関わりがあるなら、生徒会役員になった暁にはその関係を断ち切ってもらわないとと思って」
「え? 何で?」
「何でって、御三家は生徒会役員の敵なんだから、当たり前でしょ? あの三人、役員を殴ったり脅迫したりなんてことは日常茶飯事なの。本当に困ってるのよね」
蝶乃さんは悩ましげな溜息をついた。御三家が生徒会役員を目の敵にしてるのはいいとして、気になるのは、御三家のほうが悪者に聞こえるということだ。でも敵だから話を盛ってるんだな、ここは話半分で聞いておこう。
「なるほど……」
「成績がいいからさすがに先生も辞めさせたがらないし、最近は役員にまでファンが出てきたし」
後半から愚痴っぽくなってきた。蝶乃さんはイライラと紅茶のカップを掴む。
「大体、一番腹が立つのが桐椰くんなんだけど。彼、この私が最初に指定役員に誘ったっていうのに、何も知らないくせに、頭の足りないヤツの下に就く気はないとか言いやがったの。は? 私の何が頭が足りないっていうの。頭が足りないのは何でもかんでも暴力に持ち込む桐椰くんのほうなのに」
「はぁ……ご愁傷様です」
もしかして桐椰くんと蝶乃さん、仲悪いのかな。蝶乃さんはぐびっと豪快にセイロンティーを飲んだ。
「まあ、そんな話は置いといて……桜坂さん、もう一度聞くけど」
あ、執行猶予期間終了のお知らせだ。私の背筋が伸びた。
「指定役員、引き受ける?」
どうしよう。御三家と生徒会、どっちを選ぶのが正しいだろう。さっきから同じ条件が頭の中でぐるぐる回ってる。
蝶乃さんに絶対服従したくないし、断った方がいいかもしれない。でも、特典があまりにもおいしすぎる。御三家はしょせん学園内で有名なだけで、この学園の外に出れば何の役にも立たない盾。でも花咲学園生徒会役員は看板として対外的にも意味を持つ。
「……指定役員──」