「第一条件は、この学校に来て間もないこと」
「……なんで?」
「生徒会の息がかかってない確率が高いから。一ヶ月過ごして、分かっただろう?」まるで馬鹿にするように松隆くんは笑い「この学園の生徒は、誰も彼も、生徒会役員が学園のトップだと思いこんでる。そんな学校に一年以上浸かったヤツを仲間にしたって無駄だろう?」
生徒会を潰すための、それは合理的な人選だ。
「第二条件は、根性があること。生徒会役員に脅されて簡単に俺達を裏切られちゃたまんないからね。その点、桜坂は生徒会の虐めによく耐えてるみたいだし」
「……まあね。これだけ嫌がらせなんてされたら、いくら握らされても生徒会になんてつかないよ」
「それがつくヤツばっかりだから面白いんだよ」
皮肉気に冷ややかにそう吐き捨てたときの松隆くんの横顔からは、最初の甘い笑顔など消え失せていて──一瞬だけその闇を垣間見てしまった気がして、ぞっと背筋が震えた。
ただ、同時に、脳裏には有希恵が過った。あんなに生徒会から虚仮にされてたというのに、手のひらを返すより簡単に私を見捨てた有希恵。
その事実に対して私が感じていたことが、今になって顔に出てしまったのだと思う。松隆くんは「心当たりあるんだね」と笑った。
「そして、第三条件。御三家との間に生じる対価関係が、御三家にとって大きなコストとならないこと」
対価関係──私は御三家の仲間として働く、その対価として、御三家は私を守る。確かに、松隆財閥を背後に持つ松隆くんがリーダーなのであれば、御三家にとって、私を生徒会から守ることなど造作もないことだろう。そして私は、生徒会から守られさえすれば──平穏な学校生活を送ることさえできれば、充分だ。
生徒会から虐められていない人にとって、御三家に守ってもらえるなんて条件は大しておいしいものではない。それでもって、松隆くんや桐椰くんみたいに見目麗しい男子にお願いなんてされたら「代わりに付き合ってください」なんて言い始める女子がいてもおかしくない。
確かに、私は御三家にとって非常に都合のいい女子らしい。思わず笑ってしまった。
「……うん。私は、ちゃんとこの高校を卒業できれば、それでいいよ」
「だろ? そして、第四条件、胆が据わってること」松隆くんは桐椰くんを顎で示し「遼がオーケー出したってことは、遼にも動じなかったんだろ」
桐椰くん──見た目は絵に描いたようなにヤンキー、不機嫌そうで、横暴さは口にも態度にも表れていて隠す気など微塵もない。そんな桐椰くんを怖がらなかったから、肝が据わっているとでもいうのだろうか?
「動じなかった、ってのは、遼を見ても怖がらなかったってことだけじゃない、変に異性として意識しなかったってことだよ。君は男と友達として接することにきちんと慣れてる」表情だけで私の疑問を読み取り「男三人の御三家の中に、自然に入れる」完璧に払拭してみせる。ああ、本当に、この人は怖い人だ。
「まあ、俺は慣れてないタイプなのかな?」
「……そうですね。松隆くんみたいな人には会ったことないかも、です」
正解だ。こんな短時間で他人を丁寧に分析し、見透かしてしまうような人を、私は知らない。
「そして、第五条件」
私に一歩近づいた松隆くんの指先が、私の眼鏡のブリッジに押し当てられる。バレル型の、薄紫のマーブル模様、プラスチックの眼鏡。彼はニッ、と口角を吊り上げた。
「守り甲斐のある可愛さがあること」