お昼前、中間試験を終え、筆記具を片付けていると、隣から椅子を蹴られた。振り向くと、こちらに向き直った桐椰くんが偉そうに腕を組んで座っていた。
「……なに?」
「ちょっと付き合えよ」
ヤンキーに付き合えと言われるなんてリンチのための呼び出しでしかないじゃないか。
「あ、わたくし用事がありますので、これにて失礼します」
すぐさま机の上のカバンを掴んだけれど、バンッと桐椰くんの手が机の上に振ってきて、カバンはそのままそこに縫い留められた。
「いいから来いよ」
コッワ! 助けを求めて辺りを見回すけれど、状況は朝と同じだ。被害者が私に変わっただけ。ここは颯爽とボケて躱して逃げるしかない。
「もしかして告白? 私の好みのタイプは穏やかで優しい人なのでヤンキーは無理です、ゴメンナサイ」
「お前分かっててボケてんな? 言っとくけど俺のツッコミは痛いぞ」
“ツッコミ”と言いながら指の関節がバキバキバキッと音を立てている。ツッコミに名を借りた暴力を振るうつもりだ、なんてことだ。身の危険を感じて、きりっと表情を引き締める。
「ごめんなさい、全部冗談です、嘘です。なんでしょう。パシリでしょうか」
「あー、まあ近い」
「え? 今のもボケだったんだけど。え?」
「いいから来いよ。悪い話じゃねーから」
桐椰くんが立ち上がると、クラス中がまたピタリと静止する。桐椰くんが動くたびにクラス中が反応して、しかもご機嫌伺いのような空気を醸し出すなんて、桐椰くん、爆弾みたい。
そんな桐椰くんの後ろに付き従って教室を出るとき、一瞬、有希恵と目が合った。
蝶乃さんと仲良くしている有希恵と目が合ったのは久しぶりというわけではない。割と頻繁に目は合う。
ただ、目が合って、それで終わるだけだ。会話をすることなんてないし、次の瞬間にはサッと逸らされる。それは今日も変わらない。それだけで、有希恵との関係を考えるのにはうんざりした。