お昼間、わたしは、散歩をしていた。


穏やかな日差しと風が、肌に心地よい


「もう、秋ね・・・」


わたしは、呟く。


ゆったりとした時間を過ごしながら歩いていると、


わたしは、小石につまづいて転んでしまった。



「痛い・・・」


わたしは、声を上げた。



すると突然、



「大丈夫ですか?」


それは、わたしと同い年くらいの男性だった。


「は、はい。ちょっと膝を・・・・」



「見せて下さい」


男性は、言った。



男性は、自分のハンカチをわたしの膝に巻いた。



「す、すみません」



「これで血は止まると思いますので、家に帰ったら
消毒してください」



「ありがとうございます」



「それでは、僕は用事がありますので。さようなら」






次の日。





「こんにちは」


歩いているわたしに、突然、声が届いた。



それは、昨日の男性だった。




「あ、こんにちは」



わたしは、元気よく挨拶をした。




「足は大丈夫ですか?」



「はい。大丈夫です」



「そうですか。それは良かった」



男性は、笑顔で言った。




「今日は、気持ちの良い天気ですね」


男性が、言った。


「そうですね」



「今夜は、良い天体観測日和になりそうだ」



「あら、星がお好きなのですか?」



「趣味程度ですよ」



「すごいじゃないですか。素晴らしいわ」



「良かったら、今夜、一緒に星を観ませんか?」



「よろしいんですか?」



わたしは、ためらったがそう言った。




「もちろんいいですよ」



男性は、笑顔で言った。



「では、今夜の9時にここで待っております」


男性は、言った。



「はい。わかりました」








―――午後9時。


「お待ちになった?」


わたしは、言った。



「いえ。大丈夫ですよ」



男性は、応えた。



「さぁ、行きましょうか」



「どちらへ?」



「あちらの河川敷ですよ」



男性は、笑顔で言った。



「では、行きましょう」







数十分後、二人は河川敷へと着いた。



「ここにしましょう」


男性は、言った。



「はい」


わたしは、応えた。






「ほら。これがカシオペヤ座ですよ」



「わー。すごい」



「そして、これがペガスス座」



「へぇー。綺麗だわ」



「それから、これがアンドロメダ座。この星座とペガスス座にある
四つの星から作られる四角形は、秋の大四辺形と呼ばれるんですよ」



「星に詳しいんですね。素敵だわ。それに、凄いと思います」



「そんなことないですよ。それから・・・」








二人の時間は、あっという間に過ぎて行った。









「それでは、今夜はこの辺で」


男性は笑顔で、言った。


「ありがとうございました」


わたしも笑顔で、言った。





翌日もその翌日も、わたしと男性は河川敷で
天体観測をした。








そして、そんな日々が一カ月過ぎようとしていた。







いつものように、わたしは、男性と天体観測をしていた。




「わたし・・・」




「どうしたんですか?」




「いや・・・何でもないです・・・」




「そうですか。そういえば、自己紹介がまだでしたね。遅ればせながら
僕は、セセラギと申します。よろしくお願いいたします」



「すみません。こちらこそ。つい天体観測に夢中になって。わたしは
カガミと申します。よろしくお願いいたします」






ややあって。





「カガミさん。もしよろしければ、僕とお付き合いして頂けませんか?」



「えっ・・・それは・・・」



「やっぱり、無理ですか。それはそうですね。お互い家庭持ちなんだし」




「は・・・はい・・・」




「それはそうだ。ハハハハハハ。僕が愚かでした」




しばしの沈黙の後。





「い、いえ。そんなことはないです」



わたしは、言った。



「わたしは、セセラギさんのことが・・・・」




その瞬間。




わたしは、セセラギさんに抱きしめられていた。






セセラギさんは、何も言わなかった。ただ、わたしを抱きしめていた。



そして、わたしも、セセラギさんを強く抱きしめた。






「セセラギさん?」



「なんですか?」



「綺麗ですね。今夜の夜空は・・・」



「そうですね。とっても綺麗です」



セセラギさんは、声を震わせながら言った。



「セセラギさん。さようなら」


わたしは、言った。



「さようなら」


セセラギさんも、言った。








月灯りが、二人を照らしていた。