「ごめんね」
「はい?なんで謝るの?」
「だって上手に出来なかったから」
「そこはもう、別にいいんじゃない?一応、この食材たちはキチンと本来の役目を果たせてるわけだし」
「そうだけど……」
「そもそも味なんてオマケで付いてくるものに過ぎないと俺は思うんだよね。 そりゃ美味しいに越したことはないよ? けどさ、彼らを摂取する本来の目的は栄養を体に取り入れることなわけだし」
「う、うん」
「確かに無様な姿と味にされた食材たちは可哀想だけど、本来の目的である栄養素としては大活躍が出来てるしね。そこはもう、彼らだって、しゃーなし梨子を許してくれると思う」
そもそも梨子がスーパーから救い出さなきゃ、廃棄される運命だったかも知れないんだから……と、秀ちゃんは落ち込む私に少しばかり大げさなフォローを入れてくれる。励まそうとしてくれているらしい。大丈夫だよ。平気平気と言いながら、ご飯を食べ続けている。
「じゃあ、そこはもう飽くまでも食材に対してごめんなさいだね」
「そうだよ。そこは失敗された鶏と野菜たちに対してごめんなさいだよ。俺じゃなくね」
今度、同じ食材に会ったら謝っときなよ。許してくれるから。と、秀ちゃんは大真面目な顔で冗談のような、本気のようなことを言う。きっと甘やかしたいと思う気持ちと、優しくするのは恥ずかしいと思う気持ちが鬩せめぎ合っているんだろう。
若干、照れくさそう。だけど、もうツンツンしてみせたって優しさは隠しきれてない。失敗したっていつも残さず食べてくれるのを見てると尚更思う。
いつだったか同じように失敗した時にポロッと言ってたっけ。一緒に食事をしている相手が俺って時点で嬉しいから別にその辺は何だっていいんだよ、って。照れたようにそっぽを向きながら不貞腐れたような表情を浮かべて、小声で呟いてた。
結婚する前のことだったけど、秀ちゃんの中のその考えは未だに変わっていないんだろう。機嫌が良さそうに笑っている秀ちゃんを見てるとそう思う。何だかもう嬉しいや。失敗しちゃったことに関しては申し訳ない気持ちでいっぱいだけど。
「ねぇ、秀ちゃん」
「何?」
「大好きだよ」
「は、はぁ?」
「秀ちゃんの奥さんになれて幸せ」
そう言ったら秀ちゃんは耳を真っ赤にして咳き込んだ。
「いきなり何?そう言うのは後にしてよ!」と、しどろもどろしながら、お説教。
うん。やっぱり恥ずかしがり屋なところは変わっていない。あの全てが始まった放課後の日のまま。いや。
「だったら結婚して良かったね」と言う秀ちゃんはあの時よりも大人で優しい。
大好きな、私の旦那様。願わくば、このまま変わらない2人で居続けたいなーと思う。
結婚して少し経ったある日の2人の晩ご飯。
君に溺れた5秒前【完】