「……どういうこと?俺、最初にウスターソースとオイスターソースは全くの別物だって梨子に説明したよね?」
「う、うん」
「砂糖と塩だってちゃんと容器に名前が書いてあるのになんで間違うの?もしかして梨子にはこの文字が見えてない?まさか俺の幻覚?」
「ちゃんと書いてます…」
「だったらちゃんと名前を見て。小麦粉と片栗粉だってそうだよ。粉は粉でも別物だから。一緒にしないで」
「はい…」
「それとね、料理酒が足りないからってみりんを足しても、それはみりんを追加しただけに過ぎないから。ましてや甘酒をぶっ込むなんて言語道断。味が全く違うんだから。そこら辺ちゃんと理解してよ」
付き合って7年。 結婚して1ヶ月。 世間一般では愛情が盛り上がっているであろう時期。 仕事から帰ってきた秀ちゃんが私の作った料理を数口食べて、盛大に呆れ返る。
どうやら良かれと思ってやったことが全て裏目に出たらしい。 おバカなのは勉強面だけだと思ってたけど、私には料理の才能もなかったみたい。 溜め息を吐かれて、ちょっと落ち込む。
「お菓子は上手に作れるのに。ご飯になると途端にポンコツになるのは、どうしてなの?」
「さぁ…。自分でもどうしてだかサッパリ」
「本当に謎。最大のミステリー」
カチャリとお箸をテーブルに置き、秀ちゃんは指を組んで真剣に私の料理スキルの謎について考え始めた。