「悪いけど、そんな言葉を言うつもりは更々ないから」

秀ちゃんはそう言って私の腕をグッと掴んで引き寄せた。急に抱き寄せられた所為で「きゃっ……」と小さい叫び声が出る。


「何、今の声。計算か何か?」

「まさか、そんな……」

「だとしたら完璧だよね。 いちいち俺のことをドキドキさせてさ」


楽しい?趣味が悪いよ。と秀ちゃんは相変わらず早口でペラペラと私に捲し立てる。


「……ドキドキ?秀ちゃん私にドキドキしたの?」


そんなまさか。と思いつつ、つい気になってバカ正直に尋ねてしまう。だって、信じられない。秀ちゃんが私にドキドキするなんて。


「別に。 ただ言い間違えただけだし」

「言い間違いって何と?」

「だから俺はドキドキじゃなくてヒヤヒヤしたんだ。本当にそれだけ。 勝手な妄想ワールドを広げないでくれない?」


不機嫌そうに言い返しながら秀ちゃんの顔が少しずつ赤くなっていく。視線は全く別の場所だ。こちらは一切、見てくれない。


「もしかして秀ちゃんってかなりの照れ屋さんだったりする?」

「なんで?」

「顔が赤いから」


そうツッコんだ私に秀ちゃんは嫌そうに顔を顰めた。聞かれたくなさそう。


「そんなことどうでもいいし。 彼女になるの? ならないの?」


強気に聞いてくるのに秀ちゃんの顔は少し不安げだ。秀ちゃんって意外と顔に出るんだ?そう思ったら何だか秀ちゃんが可愛く見えた。


「好きって言ってくれたら付き合う」


ちょっと意地悪だけど……。やっぱり好きって言って欲しいんだもん。そう思ってニコニコしながら待ってたら後頭部をグッと引き寄せられた。そして再び唇が重なって……。


「俺からの愛情表現。 意味は好きってことで。これで勘弁して?」


唇が離れたと同時に秀ちゃんはそう言った。


「……え?」

「キスが好きって言葉の代わり。梨子のこと好きだけど、好きとか愛してるだとか、恥ずかしくて言えそうにないし」


ふて腐れたように俯いた秀ちゃんは耳まで赤くなっていて。


「しょうがないなぁー」


なんて言って抱きついた。私の初めての彼氏はひねくれ屋で、シャイで、ちょっと強引で。とっても可愛い人で決まりです。


Fin


「今までどうして冷たかったの?」

「そんなの喋る度に緊張してたからって分からないわけ?」