「え?えぇっ?キス?」
秀ちゃんと私が?驚きすぎて鞄を落とした私を見て、秀ちゃんはクスクスと笑った。バカだなー、って。
「いちいちキスくらいで驚かないでくれない?」
「普通は驚くよ!」
「なんで?動物だってキスで愛を確かめ合うこのご時世で、そんな過剰に反応するのは梨子だけだよ」
そう言って秀ちゃんは落っことした鞄を拾って私に差し出してくる。
「あ、ありがとう……」
動揺しつつも反射的にお礼を述べながら鞄を受け取る。
「どーも」
秀ちゃんは鞄から手を離すと、ふっと唇の端に不敵な笑みを浮かべた。悪い笑顔だ。いつもと雰囲気の違う秀ちゃんに何故だか無性にドキドキする。
「ところで動物ってキスするの?」
お礼の話から話題を逸らしたい一心で秀ちゃんがさっき言ってた話を聞いてみる。動物がキスする話なんて聞いたことがない。そんなのあり得ない。
しかし、秀ちゃんはバカにしたように小さく笑った。当たり前じゃん?って。
「知らないの? 犬も猫も鳥もみんなキスしてるんだよ」
「本当に?」
「本当だよ。動物だって恋をするんだと思うんだよね。俺は」
そう言った秀ちゃんは何処と無く楽しそうで。そんなメルヘンチックなことを普通に楽しげに話す秀ちゃんにちょっとだけ驚く。しかも、発想がちょっと可愛い。いつも冷たいことを言ったりするけど、やっぱり秀ちゃんって温かい人なのかなと思った。
「うん。そう思ったら素敵だねっ」
素直な感想をヘラヘラ笑いながら述べた私に秀ちゃんも満足そうな笑みを返してくる。
うわぁ…。秀ちゃんの満面の笑みなんて初めて見た。ニコニコと機嫌が良さそうに笑う秀ちゃんは年相応の男の子だ。ちょっと可愛いかも知れない。
「でしょ?動物の求愛だよね。キスって」
秀ちゃんは少しだけ首を傾げてそう言うと、私の両肩に手をポンと置いた。同意を得るような目で見つめられてコクリと頷く。
「求愛?言われて見ればそうかも?」
求愛かぁ……。動物にも恋人とかいるのかな?だとしたら素敵だよね。そう思いながら視線を秀ちゃんに戻したら、秀ちゃんの顔が物凄くドアップで視界に映って驚いた。近すぎ。
「へ?」
そう口に出した瞬間にはもう唇は重なっていて。
「求愛……してみた」
なんて意地悪く笑われて心底ドキドキした。