振り返った彼の表情は無表情で、黙って私の顔をじっと見据えたあと─…
「……別に、助けたとか思ってないから」
「…ん?えっ…今なんて」
「試験の日…遅刻したのは向坂のせいじゃない」
「覚えて、くれてたの?」
「…そういう訳だから。俺はヒーローでもなんでもない。憧れるのは勝手だけど、それに俺を巻き込むのはやめてくれ…迷惑だ。」
それ以上、何か言うことはなく。最後は私と目を合わせることなく立ち去ってしまった成川くん。
途中まで…何だかいい雰囲気だと勝手に妄想が膨らんでいたのだが、最後の最後で”迷惑だ”という爆弾ワードが落とされたことによりトドメの一撃を食らった。
いやでも…ひとつ、喜ばしい点もある。
「向坂って…苗字で呼んでもらえたっ!!」
成川くんは基本的に女子のことを”君”と呼ぶ。人称代名詞を使用して、極力名前や苗字を口にしたりしない。(この半年、彼を観察して知り得た知識なので間違いない)
恋心は粉々に砕け散り粉末になってしまったが、風に飛ばされて無くなってしまうような虚しいオチでは無かったみたいだ。
少なくとも…他人同然だったこれまでより、”向坂”と認識してもらえた今の私は…昨日までの私よりずっと成川くんにとって近しい存在になれたような気がする。(持論)
彼女にはなれなくても…友達にはなれる!!
まずは成川くんの女友達第一号になれるように、明日からまた頑張りましょう。