再び誰もいなくなった図書室。先程は気味が悪かった静けさも…今は有難く思える。
消沈するにはもってこいの環境に甘え、その場にしゃがみ込んで顔を手で覆って…泣いた。
「…成川くんは、覚えてないかもしれないけど」
”前置き”と言われた告白の続きを…せめて声に出しておきたかった。
「入学試験の時…あなたに助けられたことがあって。あの日から今日までずっとあなたは私のヒーローでした。成川 凪琉くん。好きです、付き合って下さい」
彼が居なくなってしまった今なら、なんの迷いも躊躇いもなく言葉として口から飛び出していくのに。
本当に伝えたいことを何ひとつ言えないまま、終わりを迎えてしまったことに悔いが残る。
─……成川 凪琉
なんて、名前の響きだけ聞くとギャグみたいに聞こえるけど。彼の容姿に笑える部分など、ひとつも存在しない。
180センチ程ある長身に、柔らかそうな淡い栗色の髪。整ったEラインの横顔を見られた日は一日中舞い上がってしまう程に、男女共に見惚れてしまうほどの美男子だ。
綺麗な二重の線が入った瞼に、目尻が少し下がった切れ長の瞳は…何故かいつも鋭い視線を民衆に向けている。
特に女の子相手にはとても冷たい眼差しで…それ故に、彼に近付く女子は意外と少ないというのもまた事実であった。