靴箱に忍ばせておいた手紙を持って現れた成川くんが、入口のドアから顔を覗かせる。
「向坂 絃…って、」
「っあ…はい!私ですっ!」
誰も居ない中、手をあげて”私”だと主張したせいで…なんだが少し気まずい空気が流れる。
「……で?なに?」
「…え…?」
「用があるから、呼び出したんだろ?」
入口のドアに背をあずけ、身につけている腕時計に何度も視線を移している彼を見て…この後急ぎの用があるのだと察した。
「あ……えっと、実は、、」
誰もいない図書室に二人きり、歯切れの悪い口調で目を逸らしながらポツリポツリと言葉を発する私の様子を見て、彼もまた色々察したみたいで。
すぐにその場を立ち去ったりすることなく、私の言葉が続くのを律儀に待ってくれている。
「成川くんは覚えてないかもしれないけど、入学試験の時にっ…」
「…そういう前置きみたいなの、いいから。用件だけ伝えてくれる?」
「え……あ、そうだよね!ごめんっ」
ごめん、と謝ってから…前置きと言われたことに対して少し違和感を覚えたが、急いでいるというのは彼の全身から伝わってきたので…胸の内を早々に打ち明けることにした。