きっちりチャイムが鳴り終わったあと「残りは課題、来週提出するように」古典の教員は黒板を綺麗さっぱり消し去ったのち、教室を後にした。

諦めたわたしは、ターゲットを変える。

「青葉、さっきのノートみせて〜」

最後尾のわたしとは違い、最前列、さらには教壇の目の前というある意味ベスポジに位置する友人に救いを求めると、振り向いたついでに彼女の柔らかいボブカットがふんわりと揺れる。

青葉は二つ返事で「いいよ」と頷くから。その場に中座りしてバランスのとれた丁寧な字を書き写す。背中になんとなーく、視線を感じながら。

「なず、間に合わなかった?」

そんなの気づかない青葉は、鈴のようなころんとした声で訊ねる。

「そんなとこ。海老ちゃん、消すの早くない?」

「御薗先生がぶっちぎりで一位。なず、寝てたでしょ」

「ギリ寝てない」

「もー……なず、寝るとき半目なんだから、気を付けなよ?写真でも撮られたら、あっという間に拡散されちゃう。見出しはきっと" 学校のマドンナの寝顔ヤバすぎて草"とか、悪意たっぷりで書かれちゃう」

人気者はつらいね、と。青葉の目がメガネの奥で半月を描くので、口を両手で隠し、こっそりと内緒話をする。


「そっちの方が、楽かも」


事情を知る青葉は、だよね、と、同じトーンで返事をするから、賑やかな休み時間の教室、私たちの笑い声は空気に溶ける。