『乳房』
 
 鏡に映る身体、あまりにも女を模したこの身体。……、強烈に何かを主張すると、内側になにかが孕むように、私はなにかを孕んでいる。……ひょっとして、わたしは男ではないかしら。
 この胸がなかったころ、わたしは女でも男でもなかった。鳥だったのだ。けれど、わたしの背中に生えていた翼は、この乳房によって奪われた。
 翼のない鳥に向けられる視線、……この小説のような身体のせいで、わたしには理性が育まれた。あまりにも感情的に見えるこの乳房を勘違いしないでもらいたい。これはわたしの理性の大きさなのだ!
 小説の理解者が少ないことは知っている。本当は、誰よりもわたしが女なのに……。
『この乳房さえなければ……』
 純子は、その豊満な乳房に、爪で傷をつけた。