のんきに話しかけられて、私は背伸びをしながら、怜央さんの耳元に手を添えてささやく。
「少し我慢してください、逃げるすきを探しますから…!」
「…逃げる?」
「わっ、怜央さん!…あ、いえ、逃げようなんて思ってませんよ、もちろん。でも人違いじゃないかな~って…」
怜央さんが、周りを取り囲んでいる男の人たちにも聞こえる大きさで復唱してしまって、私は笑いながらごまかした。
いつでも引っぱれるように、怜央さんの腕をつかむ手に力を込めると、ふっ、と、となりから笑い声が聞こえる。
「まさか、俺を逃がそうとするなんて。夕華って、ほんと予想外だね」
「れ、怜央さん!」
「権力にこびへつらうやつか、身のほどを知らずに歯向かうやつしかいなくて、飽き飽きしてたんだ。でも、夕華は特別だね」