声をかけて近寄ると、愛奈は、ぽーっとした様子で前を見ていて。

 視線の先をたどってみれば、そこには倒れている男の人と、口元を手の甲で(ぬぐ)っている、不良っぽい男子がいた。


 うわ、ケンカしてたんだ。

 見つかって、愛奈が危険に巻き込まれないように、早く愛奈を連れて帰ろう!




「愛奈、帰るよ」

「あ、夕華(ゆか)お姉ちゃん……」




 二の腕をつかんで、そっと引っぱると、愛奈はハッとしたように私を見る。

 でも、名残惜しむようにうしろを見て、ずっと不良っぽい彼を見つめていた。




「ね、愛奈、今日の晩ご飯はなにがいい?」

「……なんでもいい」

「そっか。それじゃあ、愛奈の好きなクリームパスタにする?」

「聞かなくていい。勝手に作ってよ」

「うん、分かったよ」




 むすっとした顔でぶっきらぼうに言う愛奈をにこにこと見つめて、私は今日も家路(いえじ)についた。