夜の街を歩く、1人の青年。

 彼のうしろには、2人の青年が付き従っていた。




「い~い店だったぜ~」




 先頭を歩く青年の前に、赤ら顔の男がふらふらと現れる。

 男は青年にぶつかると「あぁ~ん?どこ見てんだぁ?」とろれつが回っていない声で文句を言ったが、顔を上げた瞬間に固まった。




「赤い、目…まさか、藤王の一族…!?す、すみませんでしたっ!」




 男は一瞬で青ざめて、土下座をする勢いで頭を下げたものの、青年のうしろにいた2人に道の端へ引っぱられる。

 そこで、過激な暴行が加えられても、止める通行人は誰一人としていない。

 皆、目をそらして、頭を下げながら通り過ぎていくだけ。


 青年は気だるげな赤い瞳で、そんな辺りの様子を見回すと、ため息をついて、星も見えない空を見上げた。




「つまんな…」




 ぽつりとつぶやかれた声には、失望が色濃く表れている。

 裏の世界を()べる一族であり、暴走族・Night Empire(ナイトエンパイア)帝王(エンペラー)である彼に、生の喜びを感じさせるものは、この世になにひとつとしてない。


 ――今は、まだ。