「あ、あの……、川瀬、くん……?」


すると、川瀬くんははっとしたような表情をして、両手を胸の前でぱちんと合わせた。


「……ご、ごめん」

「別に……大丈夫、だよ」


別に、だけだと素っ気ない返事になってしまいそうだったので、大丈夫だと付け加える。万が一、〝完璧〟でも何でもなくて、〝平凡〟だとバレてしまったら、それこそ元も子もないから。


再び黒板の方に体を向けると、かなり板書が進んでしまっていた。


どうしよう、先生の話聞きそびれちゃった……。


ここは自分で頑張るしかない。家に帰ったら教科書で念入りに復習をしよう。


ふ、と小さく息を吐いて心を落ち着かせる。大丈夫、さっきのは多分……事故、だから。


まだ緊張の余韻が残っているせいか、手が震えて綺麗に字が書けない。一旦手を下げて、ぶらぶらと降ってたり、手を開いたり閉じたりしてみる。


そうすると、 少しは震えがおさまってきたので、気を引き締めてもう一度板書をノートに写していく。


ただひたすら板書をするだけで、授業は終わってしまった。先生の話がなぜだか上手く耳に入らなかった。


……理由は分かっている。