「…み、巳波くん、どうしたのそれ…」


次の日の朝。学校でぼーっと窓の外を眺めていると、隣に人影を感じたのでそちらを見てみれば、右腕をギプスで固定した巳波くんが自分の席に座ろうとしているところだった。


「あぁ、これ?腕折られた。若もこれだけで済ませるとか案外温いよね」


巳波くんはあっけらかんとした口調で何でもないことのようにそう言いのけたけど、
腕以外にも痣や傷があり、全然これだけ、というレベルではない。


「も、もしかして昨日の…」


「入院するくらいボコボコにされる覚悟してたんだけどね」


不便そうに教科書を取り出している巳波くんに申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

私が勝手に教室を飛び出したりしなければ、あの女の子たちにも絡まれなかったはずだし、巳波くんも怪我を負うこともなかったはずだ。


「…っ、ご、「ごめんね」」


私が謝ろうと口を開けば、巳波くんが謝ってきたので驚く。


何で巳波くんが謝るんだろう……。


「昨日、謝れてなかったから。俺のせいで栗原が絡まれたんでしょ」


「…違う、私が悪いの…。だから、ごめんなさい」


「……何でお前が謝るんだよ」


「だって、その怪我…。大丈夫、じゃないよね…?」


確か巳波くんの利き手は右だったはずで、その利き手を折るだなんて椿くんは容赦が無さすぎる。

それに顔にも傷や痣がいくつかあって、彼の綺麗な顔に跡が残らないか心配だった。


この痣は多分殴られたんだろうな……。


私のせいで、巳波くんは……。


「…なんかまた余計なこと考えてない?」


自己嫌悪に陥っていると、巳波くんはじと、と呆れたような視線を寄越し、私の考えていることなんてお見通しだとばかりに溜息を吐いた。


「………」


「自分のせいだとか思うなよ。言ったでしょ、死ぬ覚悟は出来てるって」


「……でも、」


「あれは俺の不始末。寧ろこのくらいで済んでラッキー、それでいいでしょ」


面倒くさそうに、「ちょっと不便だけどどうにかなるだろ」とスマホを左手で器用にいじってるけど、見てるだけで痛々しい。