俺には両親がいない。
物心つく前に、俺は既に施設にいた。


噂では事故死したらしいが、それも噂であって定かではないし、今となってはどうでもいい。


俺には兄がいる。
それだけが、心の支えだった。


兄は優しく、周りにはいつも人がいた。
そんな兄が俺の自慢だった。



「蒼。俺、施設を出て夏目組に入る」


俺が中学1年生の時、兄の巴衛(ともえ)にそう言われて、心底驚いた。


夏目組って…、暴力団だろ。


それにこの地域じゃかなりでかい組織だし、そんな危険なところに赴こうとするなんて巴衛は一体どうしてしまったと言うのか。


「何で…、何かあったの?」


俺は平静を装って巴衛に問う。


「別に何もねぇよ。ただ、そこでやりたいことが出来たんだ」


ニカッと爽やかな笑顔でそう言われ、俺は押し黙る。

そんないい笑顔を見せられたら、やめときなよ、なんて言えるはずもなかった。


「……危なくない?」


「そりゃ、危ないだろうな。ま、大丈夫だ。俺は死なねぇ」


ぽん、と頭に手を置かれたと思ったら、激しく頭を撫で回された。


………髪がボサボサになった。