「だってお前、可哀想だから」


何を考えているのか分からない表情で私を見つめ、ぽつりと呟く。


「それに俺も只じゃ済まないだろうし。余計なことは言わないのが1番いいんだよ」


「何で巳波くんも只じゃ済まないの…?」


「はぁ?俺の監視が行き届いてなかったってことでしょ」


「…そんなこと…」


「あーあ。でも今回のは流石に言わないとまずいね。傷まで作っちゃって。俺、殺されるかも」


そして「教室に戻るよ」と私たちの教室がある方へ足を進める巳波くんに慌てて着いていく。


巳波くんは、なんだかんだ言いつつ優しい。

そんな人が私のせいで傷つけられるなんて、絶対にあってはならないのだ。


「…これは、自分の爪で掠ったってことにする」


「は?何言ってんの、そんなの出来るわけないでしょ」


「だって…っ!巳波くんが傷つけられるかもしれないんでしょ?!」


「お前…、」


「巳波くんには沢山助けて貰ったから。大丈夫だよ、椿くんにはバレないようにするから…」


私の言動に目敏い椿くんのことを欺けるか不安だけど、私が頑張らないと色んな人に迷惑がかかってしまう。

……それに、もしも巳波くんに何かあって、学校に来なくなってしまうようなことがあったら私は…。



「栗原」


巳波くんに名前を呼ばれて、顔を上げる。


「俺はずっと前から、死ぬ覚悟なんてとっくに出来てるよ」



ーーーその瞳は、やけに真剣味を帯びていた。