「…血が出てる」
「え?…あ、」
そっと叩かれた方の頬に触れられて、戸惑う。
巳波くんがやけに優しく私に触れるものだから、らしくもなくドキドキしてしまった。
「さっきのやつの爪、掠ったのかもね。
あーあ、流石に若に報告しないとまずいよなぁ…」
大きなため息を吐いて、面倒臭そうにしている彼はいつも通り。
でも、さっきの怒ったような表情はなんだったんだろう…?
「巳波くん…、その…、助けてくれてありがとう…」
「…勝手にどっか行くなよ。面倒臭いことになるでしょ」
「うん…、ごめん」
「…何で、教室から飛び出して行ったの」
巳波くんに面倒臭いと言われたから。
そしたら何故か泣きそうになったから。
なんて、本当のことを言っても、また面倒臭がられるだけだよね……。
「…それは、えっと…、」
「…まぁいいよ。それにアイツらはもう学校に来れないだろうし」
「え?な、なんで…」
「はぁ?若が自分の大事な女傷つけられて黙ってるわけないでしょ」
当たり前のようにそう言われても、純粋に喜ぶことなんて出来なくて。
大事な女、か…。
「巳波くんは…、あんまり椿くんに報告しないよね」
「……何だよ、急に」
「前から思ってたの。私が責められないように、最低限の報告しかしてないんじゃないかって…」
巳波くんは私の監視役である人なのに、私の行動を制限したりせず、軽く注意するだけ。
うっかり男の子と話してしまった日、椿くんに怒られると思ってビクビクしていたけど特に何も言われなくて、その時、巳波くんは椿くんに細かく私の行動を報告してないんじゃないかと思った。
巳波くんはいつも私から目を離さないように一定の範囲内で傍に居る。だから、それを見られてないわけがないのだ。
「…そんなの、お前の気の所為だよ」
「絶対気の所為なんかじゃない!」
「……はー、めんどくさ」
じっと暫く2人で睨めっこしていたら、巳波くんがまた大きなため息を吐き、「…そうだよ」と観念したかのように答えた。