何処に向かっているかも分からないまま、ただただ椿くんに着いて行く。



「ねー、椿くんどこに行くのー?」


痺れを切らした私は無理矢理椿くんの手を握りブンブン振り回す。


すると、椿くんはピタリと足を止めた。



「………お前から逃げたかった」


「え?」


「でもお前ずっと着いてくるし執拗いからもう家に帰る」



そう言うと椿くんはまた来た道を引き返しだした。



私はうざがられていることを分かっていたけどそれでも椿くんと仲良くなりたかった。


「椿くん…、ごめんなさい」


申し訳なく思ったけどしつこくするのをやめる気は起こらない。


「……何で俺に構うんだよ」


じっと、私を横目で見る椿くんは、どこか寂しそうに見えて。


少し彼の心の中が見えた気がした。



「わたしが仲良くなりたいと思ったからだよ!」


「…は?どうせお前の母親に言われたからだろ」


「お母さん?お母さんには何も言われてないよ?」



“何でお母さんの話になるの?”と言えば、椿くんは怪訝そうな顔をした。



「……じゃあどこに仲良くなりたいと思える要素があったんだよ」


「うーん…、椿くんにうざがられたから!」


「はあ?意味わかんねぇ」


「じゃあ無視されたから!」


私がそう言えば、“じゃあって何だよ”と初めて口元に笑みを浮かべた。


笑みといっても、ふっと鼻で笑った程度だったけれど、私にとっては大きな進歩で。


大人びて見える椿くんの年相応の笑顔が私に向けられたものだと思うと、とても嬉しかった。




「お前変わってるって言われねぇ?」


「えっそんなの言われたことない!」


先程より幾分か雰囲気が柔らかくなった椿くんは、果たして私と仲良くしてくれる気になったのだろうか。


「俺みたいなのと仲良くしたがるとか、相当変わってる」


自虐気味に薄く笑う椿くんの瞳は何処か仄暗く。


時折垣間見える彼の心の闇をいつか知れたら、と思った。



ーーーそれが、間違いだったのだけれど。