「しかもこの子の親、ヤクザなんでしょ?」
「えー、隣の家がじゃなかったっけ?」
「ううん。だってヤクザの家からこの子が出てくるの見たって言ってる人いたし。こわーい。何で普通に学校来れんの?」
クスクスと嘲笑う声が頭に響く。
どうしてこんな風に言われなくちゃいけないの……?
「佳奈はぁ、巳波くんのこと狙ってんの。だから、アンタが邪魔なの」
佳奈と一人称で呼ぶのは私がぶつかった人のようで、「ついでだから言っとくけど、もう巳波くんに関わるのやめてくんない?迷惑だから」と、怖い顔で私を睨みつける。
「……」
何も言わず黙っていると、それにイラついたのか、佳奈が私の肩を力強く掴んだ。
「…っ、いた…」
「わかったって言えよ」
「…や、だっ」
「は?!ムカつく…!」
ーーーバチンッ
一瞬、何が起こったのか分からなかった。
だけどすぐに頬がじんじんと痛み出して、
佳奈に叩かれたんだと気づく。
「調子に乗るなよ」
「あんたなんて、底辺なんだから床で這いつくばってるのがお似合いーー」
また叩かれる…っ!
振りかざされた腕を見て、咄嗟に目を瞑る。
だけど一向にそれはやってこなくて、不思議に思い恐る恐る目を開けるとーー
「うそ…、巳波くん…」
いつの間に近くに居たのか、
巳波くんが、佳奈の腕を掴んでいた。
「何、やってんの?」
「あっ…、これは、その、この子が悪いの!この子が佳奈の…「何やってるのかって聞いたんだけど」」
いつも冷静な彼が怒りの表情を浮かべ、
ギリギリと佳奈の腕を掴む力を強くする。
「み、巳波くん…、もういいからっ」
このままだと骨を折ってしまいそうだ、と巳波くんに駆け寄りその手を掴む。
すると案外あっさり手を離してくれたので、私はほっと胸を撫で下ろした。
「お前ら、ただで済むと思うなよ」
「ひっ…、な、なんでその子を庇うの?!」
「……お前らこそ、誰に手出したか分かってんの?こいつの親、ヤクザなんだろ?」
「そ、それは…!」
「…っ、もう行こ、佳奈!」
このままだとやばいと思ったのか、もう1人の子が佳奈の腕を引っ張り、足早にその場を去って行った。
……頬が、じんじんする。
初めて人に叩かれたかも。