「…はぁ」
首元のネックレスに通された、鈍く光るソレをスッ、と掴み見れば、脳裏に過るあの日の椿くんの言葉。
『高校を卒業したら、俺と結婚しろ』
ーーーなんで、結婚なんて。
「はぁ…」
どうしよう。ため息しかでない。
もう高校三年生になってしまった。
残された時間は少ないというのに、寝ても醒めても椿くんのことばかり考えてしまう。せめて学校にいる間だけでも、彼の存在を忘れたいのに。
それなのに何故あの条件を飲んでしまったのかと言うと、私が自由になれるのは学校に行っている間だけだと思ったからだ。
中学を卒業したら椿くんの家に住むことになるのにその上学校に行けないなんて、全く自由がないじゃないか。
あの時頭をフル回転させて導き出した答えは
正しかったのだろうか。
否、私がどう答えようと、椿くんはどんな手を使ってでも私を囚えただろう。
「はぁ…、「うるさいんだけど」」
本日3度目のため息を吐いた時、
冷ややかな声が隣の席から聞こえた。
「ご、ごめん、巳波くん…」
「さっきからため息ばっかり。“若”に言っちゃうよ」
「だ、ダメッ!」
「じゃあ静かにして。…ったく、いい加減諦めろっての」
ブツブツと独り言を言いながら机にうつ伏せで寝そべるのは、巳波 蒼くん。夏目組若頭の側近である人の弟だ。
巳波くんは、私の監視役みたいな役割を担っている…らしい。
らしい、なんて曖昧な表現なのは、彼はいつも寝てばかりで私のことなんてそこまで気にかけてないような行動ばかりだからだ。
高校生になり巳波くんを椿くんに紹介されて、男と話すなと言われたのに監視役は男の子なんだ…って思ったっけ。
「巳波くん、」
「…何。あんまり話すと若に殺される」
じろ、と横目で私を睨む巳波くんはすごく迷惑そうにしている。
…そんな顔しなくてもいいのに。
巳波くんしか、まともに話せる人がいないんだもん。話しかけたくもなるよ…。