「まさか、これだけで終わりだとでも思ってんじゃねぇだろうな。……それとも、お前の“お友達”がどうなってもいいってことか?」
歪に顔を歪ませ、口角を上げる。
椿くんは私をどこまで傷つけたら気が済むのだろう。
無理やり犯され、挙句の果てに中学を卒業したら椿くんの家に住め?……冗談じゃない。
でも…、椿くんはあの時、本気で木崎くんを殺そうとしていた。
あれは、手加減なんてまるでしていなかった。
…椿くん、私が絶対断らないように仕向けてきてる。拒否すれば本気で私の“友達”をどうにかしようとするだろう。
その脅迫に考えあぐねていれば、椿くんはスッと目を細めた。
「ふうん。まずは木崎とか言う忌々しいガキから殺してやるよ」
口元に笑みを浮かべているが目は全く笑っておらず、その底冷えするような冷徹な眼差しに冷や汗が止まらなくなる。
「や、やめてよ…、そんなこと…、」
声が震える。
「お前の返事がないということはそういうことなんだろ?」
「なっ…!ちが…っ」
「あのガキは殺したいと思ってたから丁度良かった」
言うなりむく、と起き上がり散乱していた服を集めだした椿くんに心臓がドキ、と嫌な音を立てる。
まさに今から実行しに行こうとしているかのようだった。
「ま、待って…っ!」
私は椿くんの腕を掴み、動きを止める。
……なんて恐ろしい行動力。
これが夏目組の若頭なんだ。
今まで椿くんが暴力を振るう場面を見たことがなかったから、彼が反社会的勢力だということをいつも忘れそうになる。
だけど木崎くんに対してのあのキレ方はまさにヤクザそのもので。
私が椿くんの言うことを聞かないと、木崎くんは本当に殺されてしまう。冗談なんかじゃない。それを知ってしまった。
椿くんにとって私の“何でもする”という発言はそれ程大したことではなかったのだろう。
…だって、こうやって脅せば私は言うことを聞かざるを得ないんだから。
私が馬鹿だった。
木崎くんを巻き込むことになるなんて思わなかった。
…なんて後悔しても遅いと言うのに。