“それ”を言った瞬間、椿くんは瞳をどろりと濁らせ、私をギロ、と睨みつける。



「……今、なんて言った?」


「…っ、」



……怖い。

静かで、彼の中で滾る怒りを何とか殺しているようなその問いかけに、恐怖で身体がガタガタと震え出す。


私は、言ってはならないことを言ってしまったのだろうか。


今まで、何度も何度も思っていたこと。
漸く口に出せたと思えば、それを伝えるタイミングを絶対に間違えたんだと思う。


椿くん、めちゃくちゃ怒ってる…。
でもこのままじゃお互い良くないと思うし、
関係が拗れていくだけだよ…。


「距離を置こうだ?テメェ、俺から離れていくつもりか」


物凄い力で顎を掴まれ、強制的に顔を上に向かされる。そのせいで椿くんの凍えるような視線から逃れることが出来ない。



「ち、ちが…っ」


「あ?何が違ぇんだよ」


「いたっ…!」



椿くんに強引に押し倒され、硬い床に思い切り背中をぶつけてしまう。


さっきとは比べ物にはならないくらい怒ってる…。


あの時はマットレスに押し倒したのに、今は私の事なんてお構い無しのようだ。



「わ、私はっ、このままじゃお互い良くないと思ってっ、」


言い切る前に、更に顎が割れそうなほどの力を込められる。

ミシミシと嫌な音が頭の中に響き、顎の骨が粉々にされるんじゃないかという恐怖で自然と涙が溢れてくる。



「お前、そんなこと考えてたのか」



この部屋のせいか、否か、椿くんの瞳に全く光が感じられない。



無機質で、真っ黒でーーー



怖い、怖い、怖い。