「……何故鍵が開いている?」



数時間ぶりだろうか、椿くんの声を聞いたのは。


あれだけ待ち焦がれていた人が現れたと言うのに、その声が恐ろしいほど低くて、心臓がバクバクと嫌な音を奏で始める。


さっきの子が鍵を開けたんだろうけど、正直にそれを言ったらあの子が酷い目に合わされそうな気がする。


しかし誤魔化そうにも良い考えが思い浮かんでくれない。


「え、っと…、」


「誰か来たな?」


「……」


「言え」


「……わ、わかんない」



鋭い瞳が私を突き刺す。
チクチクと疑うような視線が絡みついてくる。


「わかんねぇわけねぇだろうが、言え」


「わ、わかんないもん…っ、初めて見る子だったし…」


「……ほう」


“成程な”と椿くんはひとりごちる。


何がなるほどなの…。
私の一言で“犯人”がわかってしまったというのだろうか。



「そいつと何を話した?」


「え…っ、特になにも…」


「嘘は吐くな」


「ほ、本当だよ!」


…ここから出してとは頼んだけど。
これは絶対言わない方がいい。


「…そいつには絶対関わるな。今後、もし話しかけられたりしても無視しろ」


「え…、なんで…」


あんな子供に何を警戒することがあるんだろう。


「……奴は俺にとって害悪だからだ」


酷く蔑んだ目をする椿くんと少年の間に、一体何があったと言うのだろうか。


というか、あの子は何者なの…?



「円香」


私がぐるぐると考え込んでいると、椿くんに名前を呼ばれた。


…久しぶりにまともに名前を呼ばれた気がする。