私が泣き出したせいか、男の子は振り返り、
先程よりも眉間の皺を深くさせた。



「……ウゼェ」


「…!」


男の子から発せられたウザイと言う言葉にまた私はショックを受け、うわあんと大声を出しながら泣く。


あまり人に嫌な態度で接されたことが無いため、こういう耐性がないのだ。



「こんにちは。あなた夏目 椿(なつめ つばき)くんよね?」


すると、いつの間にか傍に来ていた母が、彼に話しかけた。


ツバキ…、この男の子のお名前…?



「…あんた、もしかして」


「ふふ。椿くんのお父さんから聞いた?」


「じゃあそいつが“マドカ”?」



そいつ、と私の方を指さす椿という男の子。



私の名前…、さっき言ったのに。



「ええそうよ。さっき円香がご挨拶したでしょう?」


「……聞いてなかった」



母と目を合わせようとしない椿くんを見て、嘘だな、と流石の私でも察する。



絶対聞こえてたのにわざと無視したんだ…。


何で聞こえてたのに無視したのかな?
わたしのこと嫌いなのかな?


ううん、初めて会ったのに嫌いなはずない!


絶対、絶対椿くんと仲良くなってやる!!



ーーそう私が謎の闘志を燃やしている間に、



「円香のこと、よろしくね」


「……」



母と椿くんがこんな会話をしていたなんて、知る由もなかった。