待機させていたのか、近くに黒塗りの高級車が止まっていた。
住宅街にあるものだから一際目立っており、そんな車に乗りたくないな、と憂鬱な気持ちになる。
椿くんは乱暴に車のドアを開け、私を投げるように中へ押し込んだ。
今まで椿くんに乱暴なことをされたことがなかったから、チクリと胸が痛む。
椿くんが運転手に「出せ」と声をかける。
その声はやはり怒気を孕んでいて。
やっぱりまだ怒ってるよね。
さっきよりは少し落ち着いたみたいだけど…。
車内の空気は最悪で、マイナス20度くらいあるんじゃないかと思うほど冷やかで、心做しか寒気も感じる。
「つ、つばきくん…、」
この空気感に耐えられず、椿くんに声をかけてみる。
しかし「黙れ」と顔も見ずに言われてしまったので、私は言われた通り黙ることしか出来なかった。
椿くんの家の前で車が止まり、降りるように促される。
逃げるように車を降り、お礼を言って足早に自宅に帰ろうとすると。
「い、った…っ!」
脱臼するんじゃないかというぐらい強く肩を掴まれた。
「何処に行こうとしてるんだ」
地を這うような低い声を出した椿くんに、身体を引き摺られるように屋敷へと連れて行かれる。