「……家主居ねぇけど出た方がいいのか?」
胸騒ぎがした。
でもまさか。そんなはずない。
「…わかんないけど、宅配便とかなら出た方がいいんじゃない?また再配達頼むの面倒だろうし…」
私は違和感を無視して、それが気の所為であることを確かめて安心したかったからそう言った。
「…じゃ、俺出てくるわ」
「…ごめんね、ありがとう」
木崎くんが部屋を出ていく。
今まで私に悪態ばかりついてきたけど、今日の勉強会で案外優しいということがわかった。
「……後でまたお礼言おう」
木崎くんへの印象が変わって、そう呟いた時。
「ー…誰だテメェ!勝手に、入ってくんなっ!おい、待てっ!」
木崎くんが声を荒らげて、誰かと話している声が聞こえてきた。
なに…?宅配便じゃなかったの……?
なんて言ってるかよく聞こえないけど、“誰か”の足音がこちらに近づいてきているようで。
迷うことなく、こちらに。
まさか、まさか、まさか。
有り得ない。だって狩屋くんの家には初めて来たんだから。
私は部屋の中で狼狽えることしか出来なくて。
そうこうしているうちに足音は私のいる部屋の前で止まった。
ーーーバンッ!!
ドアが勢いよく開き、目の前に現れた人物は
やはりその“まさか”の人物で。
「つ、つばきくん…」
「なぁ、」
その瞳は瞋恚の炎に揺れ、私を静かに睨みつける。
「いつからここが、お前の家になったんだ?」
絞り出された声は、獰猛さを孕んでいた。