ーーー10年前。



「お母さんっ!今日からこのお家に住むの?!」



当時8歳だった私は、新しい家に引越し出来ることを純粋に喜び、母にドンッと抱き着いた。



「そうよ〜、ただちょっと隣の家の人がヤのつく職業の人だけど、細かいことは気にしない気にしない!ね?お父さん」


「………そ、ソウダナ……」



隣の家?もしかしてこの大きなお家のことを言っているのかな?


私の新しいお家のすぐ隣にあるのは、日本家屋のような立派な建物。

大きな門で中が見えないけれど、とても素敵だと思った。


「わたし、隣のお家の人にご挨拶しに行くっ!」


「ま、まままままどか?!待て、早まるな!!」



私は父の制止を無視して走り出す。

後ろから悲鳴のような声が聞こえたけど、それも興奮状態の私には聞こえていなかった。


隣とはいえ結構距離があったから息が上がる。


ふう、と息を整え、いざ、という時。


目の端に誰かの脚が見え、顔を上げると、学ランを着た中学生くらいの男の子が奇妙なものを見るような目つきで私を見つめていた。


「……誰だテメェ」


「私の名前は栗原円香です!このお家の人ですか?」


「………」


男の子は白けた目で私を一瞥した後、重そうな門を開け屋敷の中へ足を踏み入れる。


ちゃんと挨拶できたのに無視された…!


その男の子の対応に、今まで無視なんてされたことの無い私はあまりのショックにわんわん泣き出してしまう。