真っ暗な部屋の中には静かな寝息と時計の秒針しか聞こえておらず、私は息を殺しながら繋がれている手錠を予めある人物から貰っておいた鍵で外した。


腰には男の腕が絡みついており、身動きが取れそうにない。



ーーー頑張れ、私。
計画通りにやれば、きっと上手くいく。



会合帰りのこの男は相当酒を飲まされたのだろう。いつもより眠りが深い。




……私はこの日をずっと待っていた。



何回も脳内シミュレーションを重ねて、今日やっと計画を実行する。


いつもこの部屋の外で見張っている組員も、協力者が引き付けていることだろう。



「…ん、まど、か…、」



慎重に腕を外そうとした時、男から自分の名前を呼ばれ心臓が飛び出そうなほど吃驚したが、唯の寝言のようでホッと胸を撫で下ろす。



寝言でまで私の名前を呼ばないでよ…。


決意が揺らぎそうになるけれど、もう決めたのだから。









ーーーこの日、私はこの男から逃げ出した。