『あだ名』

 この春、成人した純也は、小学生のころから『純ちゃん』として生きてきた。
 純ちゃんは、誰よりも優しく、笑顔の似合う男だったから、友人らの前では、いくつになっても純ちゃんでいなければならなかった。もう、とっくの昔に純ちゃんではないのに……。
 あのとき、本当は怒りたかった、あのとき、本当は唾を吐きたかった、あのとき、本当はお前なんか嫌いだと言いたかった、……そういえば、一体、このあだ名は誰が付けたんだ? 俺は純ちゃんに呪われている……。
「純ちゃん、何だよ、考えているようなふりして、なにも考えちゃないくせに。間に合わないよ。行こう」
「そうだね、行こう」
 純ちゃんは誰からも愛される笑顔で、またそう言った。