ため息も呆れ顔も多い千佳くんだけど、本気で嫌がられたことがないから、つい甘えてしまう。

 自分の身体に巻きついた腕に、頬を寄せた。



「最近、お仕事忙しい?」

「春夏コレクションの準備してるくらいだな」

「そっか、秋冬の発表したもんね」



 冬服を売るのに、冬に仕事をはじめても遅い。

 基本は、その時期に間に合うように、半年や一年前から準備に取りかかる。アパレル業界は、今の時期に春夏に向けての仕事がはじまるんだって千佳くんを通して知った。

 店舗じゃなくてもECストアでも服は買える。新作はプレオーダーもしてる、とちんぷんかんぷんなことも千佳くんは言ってた。



「朝帰りなのも忙しいからぁ……」



 別に、別にいいんだけど。絶対に帰ってきてなんてわがまま言わないけど。

 いつまでわたしたちは、一緒にいられるんだろう。



「ほんとうは、一人暮らししたかったりする?」

「……は?急に何の話だよ。しねぇよ」



 わたしの唐突な質問に、千佳くんが訝しむ。

 きっぱりと否定の言葉を返されたけど、納得できなくて言葉を続けた。



「だって、わたしももうすぐ20歳だよ。子どもじゃないよ。千佳くんに面倒みてもらう歳じゃないし、いつまでもこの家で一緒に住むのは、変だもん」

「一人で生きていけんの?むりだろ、俺がいないと」

「やってみないとわかんない」

「……」



 自立したい。

 そう言うと、空気が少しだけ剣呑になった。